■ PLACE TO PLACE Vol.2 (by Ishiki)


 男女五人の友達グループ、その中でからかわれる友達以上恋人未満な二人組。御庭つみきさんは音無伊御君のことが大好きなのですが、つみきさんは不器用で気持ちが上手く表現できないし、伊御くんは露骨なアプローチにも気付かない朴念仁だしで、二人の関係はなかなか進展しません。そんなつみきさんのツンネコっぷりを観察しているだけで身悶えが止まらなくて、ああもう、こいつらは!
 ……というだけならば、勿論すばらしい作品ではあるけど、わざわざ取り上げるほどもないのでしょうが、もう少し、現代萌え作品的に複雑なところがあるので、そこについて以下検討を。
 現代萌え四コマについて復習しましょう。「女子高生が数人集まってお喋りしているだけのオチが付かない漫画」というのは手垢の付いた萌え四コマへの批判ですが、今ではこれは萌え四コマの強みとして捉え直されています。つまり「お喋りって、楽しいじゃん」と。つまり、萌え四コマはコミュニケーションを、とりわけ現実社会を生きる上でのしがらみやストレスに絡め取られていない姿でのコミュニケーションを、精緻に描写することを目的とするジャンルである、と定義するのです。「物語」を乗っけることが困難である四コマの形式は、お喋りや遊びのような、より純粋なコミュニケーションを表現する媒体としてみれば、優れたものとなります。
 「あっちこっち」も、そのような思想を元に描かれた作品であり、伊御さんたち五人のグループは仲良く遊んでお喋りしています。しかしその論理は、「選択」「一対一の関係」「運命の相手」といったものを基本思想とする恋愛と、相性が悪いはずです。何故ラヴコメ濃度が高いはずの「あっちこっち」は、成立し得ているのでしょう? 答えは恐らく、あまりに優秀すぎる人間は恋愛すらも、何も捨てることなく、障害なしにこなすことが出来るからです。
 現代萌え四コマを成立させるためには一つの前提が要請されます。「現実社会を生きる上でのしがらみやストレスに絡め取られていない姿でのコミュニケーションを描いている」ということはつまり、キャラクタたちはみんな現実社会のしがらみやストレスをなんなくすり抜けていく優秀な人たちだということです。このことに自覚的な作品では、登場人物がみな完璧超人的に描写されており、「あっちこっち」もその例に漏れません。料理を女の子に作ってあげたりとか、とにかく気の利く男子コンビや、機械工作系に異常に強い真宵さん(雪球バズーカとか作れないだろ常考!)、そして何より、彼らが遊ぶとなるとどんなゲームも超人類級の勝負になること。マフラーで雪玉を迎撃したり、缶蹴りが格闘ゲームの如き二択の読み合いゲーになったり、バレーボールでサマーソルトキックを決めたりと、こいつら最強すぎです。
 そこまで非人間的に優秀な人々にとって、恋愛程度の社会的行為は、簡単にコンプリートできる。恋愛に本気じゃない訳ではない。彼らは本気で恋愛をしていても、生活に本質的な問題を引き起こす(気まずくて仲良しグループに距離が出来るとか)ことがないのです。革命後の新しい人類、とでも言いたくなりますね。ひえぇ。


* archives * back *